● 日本疼痛学会の利益相反に関する規定
日本疼痛学会
利益相反委員会
2013年 7月12日 制定
2014年 6月20日 一部改正

序文

日本疼痛学会(以下、本学会)は、会員に対する教育活動、会員による研究発表、関連学会との連携、市民への啓発活動などを通して、痛みの医療の向上を図り、医療分野で社会に貢献することを目的とする。
本学会の学術集会、及び学会誌で発表される研究には新しい医薬品・医療機器・技術を用いた研究が多いが、企業との共同研究も少なくない。産学連携による研究成果は、臨床現場に還元されることによって痛みの医療の発展に寄与するものである。また昨今、産学連携による研究・開発の必要性と重要性は高まっており、産学連携活動を推進しなければならない状況である。その一方で、利益を求めなければならない企業との関係から研究成果が歪められるおそれもあるため、そのようなことが起こらないように適正に管理しなければならない。本規定は、意欲ある研究者が安心して研究に取り組めるよう環境を整備するために策定するものである。
産学共同研究では、研究成果を社会に還元することによって公的利益がもたらされるが、産学連携に伴って金銭・地位・利権などの私的利益も発生する。公的利益と私的利益が対立する状態を利益相反というが、これら二つの利益が研究者個人の中で対立する状態を個人としての利益相反と呼ぶ。利益相反によって適正な判断が損なわれると、研究方法、データ解析、結果解釈などが歪められるおそれも生じる。利益相反は産学連携活動の中で必然的・不可避的に発生するものであるが、産学共同研究の公正性と信頼性を確保するためには利益相反を適正に管理しなければならない。本学会は「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」(平成23年2月日本医学会臨床部会利益相反委員会)に基づき、産学連携に伴って生じる利益相反を適正に管理することによって、産学共同研究の公正性と信頼性を確保するものである。

目的

本学会の学術集会での発表、及び学会誌への投稿論文のうち産学連携によって実施した研究、及び本学会が組織として行い、外部に発信する事業に内在する利益相反を適正に管理する。産学連携に伴って生じる利益相反を適正に管理することによって、産学共同研究の公正性と信頼性を確保する。利益相反の管理においては、研究者と企業等の間に生じた経済的な利益関係について透明性を確保することを基本とする。

本規定における用語の定義

  • 利益相反
    広義の利益相反は、「狭義の利益相反」と「責務相反(注1.)」の双方を含む。「狭義の利益相反」は、「個人としての利益相反」と「組織としての利益相反」の双方を含む。本規定は、基本的に「個人としての利益相反」を取り扱う。
  • 個人としての利益相反
    産学共同研究では研究成果を社会に還元することによって公的利益がもたらされるが、産学連携に伴って金銭・地位・利権などの私的利益も発生する。公的利益と私的利益が対立する状態を利益相反というが、これら二つの利益が研究者個人の中で対立する状態を個人としての利益相反と呼ぶ。具体的には、外部からの経済的な利益関係等によって、公正かつ適正であるべき判断が損なわれた状態、又は損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態をいう。公正かつ適正な判断が損なわれた状態としては、データの改ざん、特定企業に有利な結果解釈などが考えられる。
  • 経済的な利益関係
    経済的な利益関係とは、研究者が、自分が所属する機関以外の機関との間で給与等を受け取るなどの関係を持つことをいう。但し、公的機関から支給される謝金等は経済的な利益関係には含まれない。
  • 給与等
    給与等とは、給与の他に、サービス対価(コンサルタント料、謝金等)、産学連携活動に係る受入れ(受託研究、技術研修、客員研究員・流動研究員の受入れ、研究助成金の受入れ、寄附講座に所属、依頼試験・分析、機器の提供等)、株式等(株式、株式買入れ選択権(ストックオプション)等)、及び知的所有権(特許、著作権及び当該権利からのロイヤリティ等)を含むが、それらに限らず何らかの金銭的価値を持つものも含まれる。
  • 注1.責務相反とは、兼業活動によって、本務における判断が損なわれた、又は本務を怠った状態をいうが、そのような状態にあると第三者から懸念が表明されかねない事態をもいう。

本規定の対象者

本規定の対象者は、本学会の学術集会、及び学会誌で産学共同研究の成果を発表しようとする者、及び本学会が組織として行い外部に発信する事業に参加する者である。なお、研究者と生計を一にする配偶者、及び一親等の者も検討の対象である。

対象者の責務

本規定の対象となる研究者は、次項で示す経済的利益関係の報告など、本学会による利益相反の管理に協力する責任がある。また、研究者は当該研究の研究分担者に本規定を遵守するよう求めなければならない。多施設共同研究の場合、第一著者は自己申告書の他に各共同施設と産学連携活動の相手先(企業・団体等)との経済的な利益関係を文章で示す必要がある。

経済的な利益関係の報告

本規定の対象者は、本学会の学術集会、及び学会誌で自ら実施した産学共同研究の成果を発表しようとする前、及び学会が組織として行い、外部に発信する事業に参加しようとする前に、自らの経済的な利益関係のうち次に掲げるものについて「利益相反に関する自己申告書(以下、自己申告書)」を学会事務局に提出し、利益相反委員会の審査を受けなければならない。なお、研究者と生計を一にする配偶者、及び一親等の者の経済的な利益関係についても同様である。申告後、新たに経済的な利益関係が生じた場合には、その都度、当該利益関係について自己申告書を提出しなければならない。
  • 産学連携活動の相手先の株式(公開、非公開を問わない)、出資金、ストックオプション、受益権等の保有の有無及び保有状況
  • 産学連携活動の相手先(企業・団体等)からの収入の有無 なお、演題登録日・論文投稿日・研究申請日から遡って同一組織から 1年間の収入が 100万円を超える場合は、年間合計金額も記載する。但し、診療に対する報酬は除く。
  • 産学連携活動に係る受入れの有無 共同研究、受託研究、コンソーシアム、知的所有権の実施許諾・権利譲渡、技術研修、委員等の委嘱、客員研究員・流動研究員の受入れ、研究助成金・奨学寄附金の受入れ、寄附講座に所属、依頼試験・分析、機器の提供等である。受け入れ先は個人だけでなく講座(研究室)等の場合も含む。なお、演題登録日・論文投稿日・研究申請日から遡って同一組織から 1年間の研究費の受入額が 200万円を超える場合は、年間合計金額も記載する。

利益相反委員会の設置

本学会の学術集会での発表、及び学会誌への投稿論文のうち産学連携によって実施した研究、及び本学会が組織として行い、外部に発信する事業に内在する利益相反を適正に管理するため、本学会に利益相反委員会を設置する。
利益相反委員会には、外部の意見を取り入れる必要があるため、外部委員を置く。外部委員として、利益相反の管理に精通している者、関連する法律等に詳しい者、産学連携活動に詳しい者等が考えられる。

利益相反委員会の業務

  • 申告者から提出された自己申告書を審査する。経済的な利益関係に懸念がある場合には、利益相反に関する状況についてヒアリングを行う。必要があれば、以下のような改善に向けた指導を行うものとする。
    (1) 利益関係を生み出す関係の分離
    (2) 経済的な利益の放棄
    (3) 研究発表の放棄
  • 経済的な利益関係についての審査・ヒアリングの内容、及び検討した措置内容を理事会に答申する。指導・管理に従わない場合は、理事会に報告する。
  • 定期的に利益相反委員会の活動状況を理事会に報告する。

理事会の責務

理事会は、本学会における利益相反の管理規定を策定し、所属する会員に周知するよう努めなければならない。経済的な利益関係は、適切な開示基準に従って一般に開示しなければならない。利益相反に関係する問題が指摘された場合には、理事会が中心となってその説明責任を果たさなければならない。

関係書類の保存

申告者及び本学会は、利益相反に関係する書類を 5年間保存するものとする。

個人情報・研究情報の保護

個人情報・研究情報を保護するため、利益相反委員等の関係者は、正当な理由なく利益相反委員会等で職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。

役員等(理事、監事)及び利益相反委員に関する利益相反管理業務の委任

役員等(理事、監事)、及び利益相反委員が、本学会が組織として実施する産学共同研究等の外部に発信する事業に参加する場合、当該研究の利益相反の管理に関係する職務に携わることはできない。

組織としての利益相反

利益相反委員会は、本学会の組織としての利益相反についても審議し、理事会に対して委員会としての意見を述べるものとする。

規定の改廃

本規定の改定および存廃は、理事会の議決を経て評議員会の承認を受け、総会にて報告されなければならない。

附則

1.本規定は平成26年6月20日より運用する。